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2009年03月14日

『近代国家成立の歴史』16 世論を背景としたアメリカ独立戦争

前回の記事ではアメリカ独立戦争が始まるまでの流れを見てきました。
前回見た通り、アメリカ軍はイギリス軍との兵力差のために戦況が悪化しています。

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ではどうやってその戦況を覆し、イギリス軍を破ることが出来たのでしょうか。
そこにはこれまでの戦争に無い方法が採られていました。
ではその方法とは?そしてその基盤とはなんだったのでしょうか?

そもそもイギリス軍とアメリカ軍との兵力差はどこから生まれてきているのでしょうか。
独立戦争開戦当時は北米植民地の全ての人々が独立に賛成していたわけではなく、むしろ賛成し独立戦争に参加していた人々は少数派でした。
これでは当然イギリス軍に兵力で勝れるはずも無いですよね。

第一の基盤 国民性

アメリカは元々私権拡大のために造られた国であり、その国にいる人々も日頃から武器を持つ等「自分の身は自分で守る」という意識がありました。
これは今のアメリカまで延々と受け継がれている意識で、アメリカ国民の国民性とも呼べるものです。
であるならば、現状反対している人々も含めて北米植民地の人々が皆賛成し独立戦争へと参加すればイギリスとの兵力差を埋めることが出来そうです。

しかしアメリカには他国にあるような、土地や宗教といった人々が一丸となる基盤がないため、皆を独立へ賛成させるには従来の方法では難しそうです。

そこで活きてくるのが第二の基盤です。

第二の基盤 活版印刷の発展

この頃の西洋における出版物は15世紀半ばに発明された活版印刷によって印刷されていました。
ドイツのグーテンベルクがそれまであった技術をシステムとして体系化したのですが、この活版印刷の技術はルネサンスの三大発明ともいわれるほど、社会に大きな影響を持つこととなったのです。
今の新聞のように大きな事件や出来事を紙にして配る、という形態のものは紀元前から存在していましたが、その種類も発行部数もわずかでした。しかし、グーテンベルクが活版印刷を発明したことでその後新聞はその種類・発行部数を爆発的に増やしていくことになったのです。


これら2つの基盤にアメリカの商人達は戦況を覆す可能性を見出しました。
その可能性を実現させるためにトマスペインによる『コモンセンス』が刊行されました。
トマスペインは『コモンセンス』の中でイギリスから独立することがコモンセンス(=常識)であると説いています。
その趣旨は「政府は人がつくったものであるから、これに反抗しても神を冒涜するものではない。イギリス政府は不正にみちている。それは君主の世襲制という不合理からきている。それゆえイギリス政府から独立して独自の政府をつくるべきである。植民地は独立する力をもっているし、この機会を逃せば二度と独立の機会は無い。」といったものでした。

アメリカは人工的に造られたものであり尚且つみんなが私権に収束していたため、他の国のように自然と人がまとまっていくということがありません。
放っておくとバラバラなままの人達をまとめるために必要となったのが、みんなが収束できる観念であり、その観念の中身こそが『コモンセンス』に書かれた私権拡大の可能性だったのです。
独立による私権獲得への可能性に訴えかけた『コモンセンス』は大ベストセラーとなり、商人達の目論見通りこれまで独立に反対していた人達をも巻き込み、アメリカ国内の世論は独立へと向かうことになったのです。
その結果戦況は見事に好転し、ついに1781年ヨークタウンの戦いに敗れたイギリス軍は降伏しました。
その後の1783年パリ講和条約によって正式にアメリカの独立が認められました。

このようにアメリカはそれまでの独立戦争や革命とは異なり、世論を形成することで独立を果たすことができました。

続く

※『近代国家成立の歴史』シリーズの過去ログです。
 『近代国家成立の歴史』1 はじめに ~市場拡大が第一の近代国家~
 『近代国家成立の歴史』2 国家と教会の結託 ~ローマ帝国を事例に検証する~ 
 『近代国家成立の歴史』3 教会支配の拡大と金貸しの台頭
 『近代国家成立の歴史』4 教会と結託した金貸し支配の拡大~宗教改革~
 『近代国家成立の歴史』5 国家と新しい商人の台頭 ~宗教改革~大航海時代~
 『近代国家成立の歴史』6 自治権を獲得したオランダ商人
 『近代国家成立の歴史』7 商人が国家をつくる
 『近代国家成立の歴史』8 オランダ商人が作った近代国家イギリス
 『近代国家成立の歴史』9 金貸しが支配するイギリス帝国へ
 『近代国家成立の歴史』10 近代国家の理論的根拠=社会契約説とは、何だったのか?
 『近代国家成立の歴史』11 国家と個人を直接結びつけたホッブス
 『近代国家成立の歴史』12 個人の「所有権」を最大限認めたロック
 『近代国家成立の歴史』13 私権社会を全的に否定できなかったルソー
 『近代国家成立の歴史』14 そして、市場拡大を第一とする国家理論が出来上がった
 『近代国家成立の歴史』15 市場拡大を第一とする国家アメリカ合衆国~独立戦争開始まで~

コメント

17~18世紀は、マスコミによって人々の意識を一つの方向に向かわせることで、社会体制をひっくり返すことができるようになった魁だったのでしょうか。英のピューリタン革命。仏のフランス革命。そして米の独立宣言の背後にも新聞の影響力があったのですね。しかし、所詮新聞の始まりは金儲けの情報紙であることや、それぞれの革命も所詮金儲けの自由を獲得するという意味では当たり前の構造なのかなと感じました。

  • プロップ 2009年03月14日 22:46

アメリカは初めて観念のみで統合した国家といって良さそうですね。

マスコミによる世論誘導を調べるとアメリカには、エドワード・バーネイズとかマクルーハンとかプロパガンダを先駆的に追求した人がいるのは、他国以上に観念操作が必要だったということと繋がりました。


  • スズムシ 2009年03月14日 22:50

>独立戦争開戦当時は北米植民地の全ての人々が独立に賛成していたわけではなく、むしろ賛成し独立戦争に参加していた人々は少数派でした。

って驚きですね。
戦争に可能性を感じな方ということなんですか?
アメリカは血の気が多いというイメージがあったので。。。

でも、コモンセンスの発刊により、容易く戦争に参加できるようになるとは。

自らの私権を脅かされ、尚且つ新たな私権の獲得可能性を示されただけで、簡単に戦争に参加できるって怖いですね。

  • ニョア 2009年03月14日 23:05

「コモンセンス」が大ベストセラーになり、アメリカ国民が一致団結して、イギリスからの独立を果たしたということは、知っていましたが、「コモンセンス」が、商人達の目論みであったとは、知りませんでした。
現在のアメリカの金融危機の状況を見ると、「コモンセンス」が、政治的背景からのものではなく、商人たちの目論見と見たほうが、遥かに説得力がありますね。

また当時は、独立戦争に参加していた人々が少数派であったことも驚きでした。独立戦争を推し進めた中心勢力は、やはり商人達だったのでしょうか。

  • ハリマ 2009年03月17日 20:05

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