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2008年10月11日

いくらあるかわからないCDS損失額→銀行間融資が成り立たない

この間、FRBが金融機関に緊急融資をしても、銀行間融資が成立しないという異常な状態が続いている。そして、今週末の世界中の株価暴落である。


『田中 宇の国際ニュース解説』の2008年10月10日の記事「CDSで加速する金融崩壊」の分析が秀逸である。


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このところ、いくらアメリカの連銀(中央銀行)が、全米企業の資金難を解消するために米大手銀行に緊急融資をしても、銀行は自行内で借りた資金を貯め込んで他の企業に貸さず、銀行どうしの貸し借り(金融システムの中心をなす銀行間金融)も停止したままという異常事態が続いている。

なぜ銀行が資金を他に貸さず貯め込んでいるのか、不思議に思っていたところ、一つの理由が見えてきた。それは、CDS(債券破綻保険。クレジット・デフォルト・スワップ)をめぐって銀行界の損失が一挙に拡大するおそれがあり、銀行はそれに備えて資金を蓄えているということだ。最大の危険は、9月15日に倒産した大手投資銀行リーマン・ブラザーズが発行していた総額4000億ドルの債券(リーマンの破綻後、これらの債券はジャンク債として約10分の1の価値となっている)をめぐるCDSの清算(保険金額の確定)が、10月10日(日本時間11日)に行われる際にやってくる。

CDSの仕組みは、次のようなものだ。たとえばA社が発行する債券をB社が買う時、万が一A社が破綻した場合にこの債券の損失補填をC社が行う保険契約を、BとCの間で結ぶ。BはCに保険料(プレミアム)を支払う。CDSは保険的な契約だが、保険の引き受けは保険会社に限らず、銀行や証券会社などの金融機関が幅広く行ってきた。

実際にA社が破綻した時、この債券の価値はゼロにはならず、ジャンク債と化すので減額となる(リーマンの場合87%減額。9月初旬に破綻して国有化されたファニーメイなど住宅金融2社の場合、政府が後ろ盾になったので減額は10%程度)。A社の破綻後、一定期間がすぎた後、債券の減額分を確定してCDS契約を清算し、CからBに保険金が支払われる。米国の民間企業が発行した債券のうち半分程度には、CDSの保険がかけられており、CDSがかけられている債券の総額は55兆-60兆ドルと概算されている。


▼リーマン・ブラザーズの負の遺産

米金融界では9月、5社の大手金融機関が破綻した。9月7日にファニーメイなど住宅金融2社が国有化された(CDS対象債券2千億ドル)。9月15日にはリーマン・ブラザーズが倒産した(同4千億ドル)。9月17日には世界最大の保険会社AIGが破綻して国有化され(同4千億ドル)、9月25日には最大手の貯蓄組合だったワシントン・ミューチュアルが破綻し、JPモルガンに買収された。

米連銀は、破綻した5社の債券にかけられていたCDSの契約を清算するための会合を、順番に開催している。最初は、10月7日にファニーメイなど住宅2社の清算会が開かれた。2社は国有化されたので、債券価値の下落は最大9%にとどまり、CDS発行者による保険金支払いは総額425億ドルと、意外に少なかった。

問題は、10月10日に行われるリーマンのCDS清算会である。リーマンは完全に倒産して消えたので、同社の約4000億ドルの発行済み債券の価値はジャンク化し、約400億ドルに下がっている。清算会によって、CDS発行者はおそらく、総額3600億ドルの保険金支払いを義務づけられる。リーマンを債券を、だれがいくら買い、そのCDSをどこがいくら分引き受けたのか、まだ全く発表されていない。清算会の後、各金融機関や投資家の損失額や、CDS保険支払い債務額が決定する。

3600億ドルの支払いとは、膨大だ。米金融界全体の不良債権を買い取る資金として米政府が用意した額が7000億ドルだった。その半分が、リーマン1社のCDSをめぐる損失だけで飛んでしまう。AIGが破綻に瀕したとき、米政府から借りた資金枠が850億ドルだった。その4倍である。この3600億ドルの支払い債務を何社で持つことになるのか、まだ不明だが、これで米大手金融機関が2つや3つ潰れても不思議ではない。事実、ポールソン財務長官は10月9日、今後まだまだ米金融機関は潰れると警告している。


▼「金融大量破壊兵器」の大爆発

CDSの保険金支払い義務を負った金融機関(上の例でいうところのC社)が支払不能に陥って破綻したら、リーマン債券の保有者(同B社)の損失は補填されなくなり、次はB社が巨額の損失を抱え、破綻しかねない事態となる。

さらに、C社もしくはB社がリーマンの債券破綻のあおりで倒産した場合、C社やB社が発行していた債券も破綻し、債券にかけられていたCDSの保険金支払いが必要となり・・・といった具合に、破綻がドミノ倒しもしくは核分裂的に、どんどん連鎖拡大していきかねない。

米国の有名な投資家ウォーレン・バフェットは、すでに2002年の時点で、CDSが持つ連鎖拡大的な危険性を指摘し「金融の大量破壊兵器」と呼んだ。当時はまだ、優良金融機関が破綻して債券のCDS保険金支払いが必要になるなどということは「あり得ないこと」と考えられていた。

しかし今回、金融危機が悪化して前代未聞の事態となり、これまでの10数年間のCDS史上初めて、巨額のCDS保険金支払いが発生することになった。10月10日のリーマンのCDS清算会は、金融大量破壊兵器の爆発の発火点となるかもしれない。関係者はリーマンCDS清算会の成り行きを緊張して待っている。清算会は22社の金融機関が参加し、米東部時間の10日午前9時45分から午後2時までの予定で開かれる。

清算会によって巨額損失が確定するのを見越すかのように、10月8日も9日も、世界的な株価の暴落が起きている。CDSの清算によってどこの金融機関が突然死するかわからないので、銀行どうしが融資し合わないのは当然だ。銀行が、できるだけ現金を保持しようと考え、一般企業への融資を貸し渋るのも当然だ。

リーマンのCDS清算会の後には、10月23日にワシントン・ミューチュアルのCDS清算会が待っている。その後はAIGのCDS清算会も行われることになっているが、時期は未定で、金融混乱が拡大した場合、かなり延期されるかもしれない。

今回もまた、米当局は自滅的なタイミング合わせをやっている。米証券取引委員会(SEC)は、9月19日から実施していた金融株に対する空売り禁止を、10月9日から解禁した。下落防止策が解除され、9日と10日、金融株が売られて株価が下落したところに、リーマンCDS清算会による巨大損失確定のニュースが加わり、金融危機に拍車をかけることになる。


つまり、誰にどれだけのCDS損失額が出るかわからない。FRBにもアメリカ財務当局にもわからないのではないか?だから各金融機関が疑心暗鬼に陥り、銀行間融資が成立しない。CDSが登場する以前の、例えば日本のバブル崩壊時にはなかった現象だ。CDSという損失額がわからない金融商品の在り様が世界の金融市場の崩壊に拍車をかけているのだ。来週以降もまだまだ波乱が続くのではないか。


(本郷猛)

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