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2007年12月03日

事実を掴み、人々の潜在期待に応えた者が次代を制する

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『プロパガンダ教本』(エドワード・バーネイズ著 中田安彦訳・解説 成甲書房刊)には、エミル・ルートヴィヒという著述家によるフランスの皇帝ナポレオンについての記述がある。

ナポレオンは、世論の動向を常に警戒していた。いつも人々の声、予想のつかない声に耳を傾けていた。ナポレオンはこう語っている。「なによりも私を驚かせているものが何だかわかるか? 大衆に耳を傾けることなく、力づくでは何一つまとめることができないということだよ」

『プロパガンダ教本』は今から80年前のアメリカで出版されたものだが、現代の世論操作マニュアルの原点とも言えるものだ。訳者解説から引用する。


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(『プロパガンダ教本』の著者)バーネイズ以前に広告業界で「代表的」と言われる人がいなかったわけではない。それは、スタンダード石油というロックフェラー家が興した大企業の広報を担当していたアイヴィー・リーのような人たちである。

ニューヨークタイムズ紙(1991年1月18日)によると、1919年夏にバーネイズはニューヨークに広報・宣伝業の事務所を開業したが、彼の事務所は全米では8番目だったという。アメリカにおける広告業の歴史は、マサチューセッツ州ボストンに1900年に設立された「パブリシティ・ビューロー」という会社に始まる。3番目の事務所を開設したのが、ロックフェラー家の代理人を務めたアイヴィー・リーである。もともと広報担当の仕事を行っていたのはマスコミ出身者か、企業に雇われる弁護士たちだったようだ。しかし、本格的に広告業を理論化した業績はやはりバーネイズのものだ。だから彼は「PRの父」と呼ばれるのである。

バーネイズの理論的裏づけとなったのは、母方の伯父であり、父方の叔父であるフロイトの心理学や、その当時流行した大衆心理学者たちの研究である。このうちの一人、イギリスのウィルフレッド・トロッターという心理学者は、第一次世界大戦中に発表した『群集の本能』という本で、人間は批判的な理性ではなく無意識的で本能的な動機に従うと論じ、大衆を個人個人ではなく一つの集団として扱い、管理する方法の有効性を主張した。いかにも大戦時らしい考えであり、この心理学は、大衆を戦争目的のもとに団結させるという狙いがあった。

トロッターの研究は連合国の戦争遂行に大きな影響を与えた。軍隊生活や戦時下の動員体制を維持するためには、個性を尊重するのではなく、大衆をひとまとめの集団として管理しなければならない、という思想がアメリカの支配層に広がっていった。

こうした社会心理学の理論的裏付けを得た学者やジャーナリストたちが集まって1917年にウィルソン大統領の提案で結成されたのが、第一次世界大戦におけるアメリカの「宣伝マシーン」である「クリール委員会」という政府組織である。この委員会は正式名称を「米国広報委員会」(CPI)という。第一次世界大戦への国内の参戦世論の育成や戦意高揚の維持を目的に結成された。メンバーには、会長にジャーナリストのジョージ・クリール、ウォルター・リップマンといった人物が参加していた。本書の著者バーネイズも中核ではないが、CPIの海外報道部のラテンアメリカ局の一員として参加している。
バーネイズは、世話になった大学教授の薦めで雑誌の編集の仕事に就いた。これをきっかけにしてバーネイズはマスメディアに進出していくのだが、彼は活字メディアではなく、大衆に向けた広報活動に注目した。このビジネスの可能性を彼が見いだしたのはおそらく、1913年に舞台劇『ダメージド・グッズ』の広報・宣伝を担当したのがきっかけである。この舞台は、性病への偏見の撲滅と性病予防のキャンペーンの一環として制作された。舞台劇への支援を求める活動を通して彼は、アメリカの財界支配層だった「石油王」の息子ジョン・D・ロックフェラー二世や、鉄道ビジネスで財をなしたヴァンダービルト一族と知り合った。

評伝によれば、大戦前に築き上げた人脈を武器にCPIに採用されたバーネイズは、自動車のフォード社、モルガン財閥系の農機具メーカー、インターナショナル・ハーヴェスター社などとも協力し、アメリカの戦争遂行に際し、兵士の士気を高めるための戦時プロパガンダ活動に従事したという。


アメリカにおける第一次世界大戦の「戦争プロパガンダ」機能を担ったクリール委員会(CPI)のプロパガンダ活動は、マスメディアを使った初めての大がかりな戦争宣伝であった。このCPIの設立をウィルソン大統領に働きかけたのがジャーナリストのリップマンだった。彼はアメリカが参戦する直前の1917年、政府直轄のニュース機関を設立するように提案した。この戦争が「世界をデモクラシーにとって安全なものとするため」の戦争であると宣伝するように主張したのである。参戦数日後の同年の4月上旬には、リップマンは「戦時プロパガンダ機関」である戦時広告・広報機関の企画案を提出している。この中では、映画産業を含む広範なコミュニケーション専門家を集める必要性が説かれている。

その活動では主にポスターや新聞を使ったものが有名である。その目的は「敵であるドイツは悪魔であり、味方であるアメリカは正義の使者である」という極めて単純な二分法である。第一次大戦ではドイツ兵に「野蛮なフン族のアッティラ」というイメージを植え付け、アメリカ国民のドイツに対する敵意を増幅させるというやり方が採られた。新聞報道でも漫画や記事でドイツ兵の残虐性をことさらに強調するものが多かった。この手法は現代の「イラク戦争」まで引き継がれていて、基本的には何も変わっていない。

戦争という「国家的な大事業」が、世界覇権国にのし上がったアメリカにおけるマスコミ産業を育成した。マスコミとは、Mass Communicationの略である。この言葉の本当の意味は、「大衆に対する情報コントロール」である。


ここでも、世論操作の背後にはロックフェラーをはじめとする資本家の支援があったことが伺えるが、ここで注目すべきは、次の下りである。

人間は批判的な理性ではなく無意識的で本能的な動機に従うと論じ、大衆を個人個人ではなく一つの集団として扱い、管理する方法の有効性を主張した。 個性を尊重するのではなく、大衆をひとまとめの集団として管理しなければならない、という思想がアメリカの支配層に広がっていった


つまり、当時のアメリカの支配階級は、世論操作の要は個人の意識操作ではなく、共認支配であることを冷徹に見抜いていたのである。それを理論化したのがウォルター・リップマンやエドワード・バーネイズであり、彼らは「個人」「自由」や「個性」をはじめとする近代思想の欺瞞性を明確に自覚していたのである。その意味で、ヨーロッパの思想家よりも正確に大衆の意識構造を掴んでいたといわざるをえない。それがアメリカにおける世論支配が成功し、アメリカが市場世界を制覇した勝利の基盤だったのだ。彼らは「個人」や「自由」、「個性」など奇麗事(幻想)にすぎないことを百も承知の上で、その幻想観念で大衆を洗脳していったのである。


つまり、事実により肉迫した者が勝利し、世論を制覇した者が世界をも制する。
それはナポレオンが世論の力を嘆いた時代には既に始まっていた。武力によって統合された武力社会から、人々の共認によって統合される共認社会に既に移行し始めていたのである。かつ、当時の大衆の最強の潜在期待が私益第一であり、私益を実現するための最強の課題共認が豊かさ追求=市場拡大だったので、それを掴んで正当化したプロパガンダ(世論操作)が成功したのである。それは自集団(ex.アメリカ)の正当化共認なので、必然的に「敵」を作り出す、あるいは「敵」を作らねば正当化共認が形成できない。ex.第一次大戦時のドイツ、現代のイラク・・・


以上がアメリカの世論支配が成功し、全世界を席捲しえた理由である。
しかし、その基盤は崩れ去っている。1970年前後に先進国においては貧困が消滅して40年近く経った現代、既に大衆は私益第一ではない。私益ではなく「社会をどうする?」という答えを、幻想や捏造ではなく事実を求めているのである。その現われが昨今のマスコミ不信である。


この事実構造を掴み、人々の潜在期待に応えたものが次代を制するのである。
そして、それはアメリカの支配階級やマスコミではない。


(本郷猛)

コメント

TBありがとうございます。
こちらからTBが通らないのでここで失礼します。
抜け出す第一歩は「隷属の認識」
http://sun.ap.teacup.com/souun/178.html

  • 早雲 2007年12月03日 22:57

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